メールでスキルアップ相談「そうだんくん」Q&A紹介
Q21. ブラケットの作図について詳しく教えてください
電気設計において、配線用の端子箱などの取り付け用ブラケットの図面を書いて手配することがあります。
過去の図面を真似して書くので、何とか仕事としては成り立っていますが、例えば、材質SPCC等や厚みの選定、ネジの選定と、そのネジに合う下穴径寸法の規格のようなものがあるのであれば、目を通しておきたいです。
機械メーカー就業中の方
A21.ご相談にお答えします。
前職では、自動車メーカーで主に車両ボディーの板金部品(ボディー骨格、ブラケットなど)、ボディー樹脂部品(モール、ケースなど)や内装部品(内張り、遮音材など)、ガラス、エアバックなどの設計開発、実験業務に約10年間携わっておりました。さて、ご質問につきまして回答をさせていただきます。
◆ ご質問内容 :(要約) 取り付け用ブラケットの設計・作図に関しての設計要件の基礎を知りたい
◆ 回答
結論から申し上げますと、一番手っ取り早く、かつ確実に身になる方法は「自分が過去に出図した図面について先輩社員に設計要件を聞いてみること」だと思います
ただし、まったく予備知識無く、質問しようにも何を聞いたらよいのかわからないと思いますので「こんなふうに質問すると効果的」と思う内容をお伝えします。
その前にお話ししなければならないことがあります。一般に設計する=図面を起すためにはまずは大きく以下の2つの要件を満足しなければなりません。
ひとつは【設計要件】と呼ぶ、いわゆる機械的、材料力学的に形状を成立させること。次にはそれを効率よく生産するための【製造要件】があります。(これら以外にもコスト要件、デザイン要件などもろもろありますがここでは割愛します)
現段階では、まずはこれら2点の把握に注力されるとよろしいのではないかと思います。
今回のブラケット(以下BKTと略)設計を例とすれば、かなり大雑把ですが設計要件としては、まず以下のフローで構造を決定していきます。
- 固定する部品(端子箱)の重量および入力負荷から判断される必要な耐荷重性能の算出
- BKT配置(&周辺スペースの確認)および点数の決定、基準穴位置決定
- 穴数、ボルト選定、穴径決定、外形形状、材質選定、板厚、表面処理などの決定
設計要件を把握するには「まず何をさせるためのBKTか?」を1.を踏まえて考えることによりおのずと決まってきます。例えば、この端子箱は3kgとします。ただし、すぐ近傍にモーターがあり振動伝播で○△× N(ニュートン)の入力が取り付け面を介してBKTに掛かるとします。(CAEシミュレーションもしくは類似のBKTなどから類推算出。もしくは簡易実験で測定。全く静止しているなら重量のみ) つまりこの場合のBKTの仕事としてはこの入力が掛かっても壊れず、持ち応えることができればよいのです。これをBKTの必要条件としてそれを満足させるために2.以降を決めて行くのです。
しかしながら、日々の限られた工数の業務の中では毎回毎回1.の検討をおこなうのは現実的ではないので、多くの製造メーカーの設計部門ではおおよそこういった標準的な部品については「設計方法の標準化」として「ノウハウ集」を作成していることが多いです。メーカーごとに異なりますが一般に「技術標準」「標準書」と呼びます。(2.以降の要件もこれにまとめている)
よって、こういった資料を参照するのが実業務での手法ではありますが、せっかくのいい機会なので基礎を把握するためにも、標準類を見ながらも1.の必要条件は何か?を先輩に聞くのがよいのではないでしょうか?
あわせて、その際には基礎となる「材料力学」の考え方も必要となってきます。一般書籍でもたくさん出回っていますし、会社の通信教育もありますのでいづれかを自己学習されつつ質問されると効果的だと思います。
次に「製造要件」としては(こちらも大雑把ですが)、
- 型構造を決める(概ね順送型が主流、他に単品型、レーザーカットなど特殊なものもある)
- 曲げR、プレス送り掴みスペース、穴径、穴同士の最小必要距離、表面処理など
- ナットを付けたり、複合BKTなどの場合には溶接要件など
- 製造ラインでの組立て要件(インパクトガンスペース確保など)
などがありますが、形状を決める際はこれらの要件によって設計要件と背反する場合が出てくることも多々ありますのである程度把握している必要があります。こちらも製造部が発行する要件書が標準化されているはずですが、設計要件同様に新規で設計する構造の場合は随時製造部門との要件チェック相談をおこなう必要があります。なお、一番わかりやすいのは工程を直接見て理解しつつ、標準書を見ることです。
また、ボルトの選定は意外と奥が深くて、例えば、直径、ピッチ、長さ、ワッシャ有無、ツバ有無、ツバ径、緩み防止剤有無、締結トルク指示、表面処理、被締結物の穴との公差内での最大ズレ発生時の応力負荷状況などがあります。
最近問題になったトラックのハブボルトの破損によってタイヤが外れて事故に至るケースなども、このボルト締結の設計不具合が起因しています(プロでも間違えるほど)。これも同じく選定~構造について標準類が参考にあるはずですが、無ければボルトと被締結部品の図面(断面)を描いて手計算もしくは簡単なCAEで軸力や応力分布を見ながら判断することも覚えていただけるとよろしいかと思います。
電気系制御屋さんとしてどこまで踏み込むか・・・によって先輩に対する質問は異なるのですが、小職としてアドバイスさせていただくとすれば「機械がわかる電気屋さん(もしくはその逆も)」はエンジニアとしてはさほど多くは無いので、他の方との差別化スキルとしてもどんどん突っ込んで取り組めば、将来的にも市場価値は確実にアップすると思います。
蛇足になりますが構造を検討する場合には まず、ポンチ絵と呼ばれるマンガを描きながら考えるクセを付けるとイメージし易いと思います。
今後も御活躍を期待しています。